元証券マンが見るETHとSolanaのステーキング利回りの違い|「実質利回り」で考えるインフレという原資

ステーキング/リステーキング

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結論(要約)

ETHのステーキング利回り(年率3%台)は、Solanaなど他チェーン(年率6〜8%)と比べると一見低く見えます。しかしこれは「どちらが得か」という単純な話ではありません。ステーキング利回りの原資の多くは、プロトコルが新規発行するトークン(インフレ)であるため、表面利回りが高いチェーンほど、供給量の希薄化(インフレ圧力)も大きいというトレードオフが存在します。

これは東京大学のブロックチェーン講座でPoS(Proof of Stake)の仕組みを学んでいる中で気づいた点で、実際に一次情報で数字を検証してみたところ、講座で聞いた数字とは多少の差があることも分かりました。証券会社時代の感覚で言うと、これは「利回りの高い商品ほど、その原資が何なのかを分解して確認する」という、投資判断の基本そのものです。さらに本記事では、この「実質利回り」という物差しを米国債利回り(リスクフリーレート)にも当てはめ、2026年8月に実際に起きた「米国債利回りの低下観測とトークン価格上昇」という値動きの背景まで掘り下げます。

仕組み・基本知識

ステーキング利回りの原資は「新規発行」

PoSチェーンのステーキング報酬は、多くの場合プロトコルが新たに発行するトークンから支払われます。つまり、表面利回り(Nominal APR)が高いチェーンほど、その分だけ供給量が増えている(インフレしている)可能性が高いということです。ステーキングをしていない保有者は、この新規発行分だけ保有割合が薄まっていくことになります。

ETHの現状(2026年8月時点の実測値)

  • ステーキングの基本APRは約2.8%。MEV(Maximal Extractable Value)由来の報酬を含めると、実質的な年間リターンは3.3%〜3.8%程度になります
  • 新規発行によるインフレ圧力がある一方、EIP-1559によって取引ごとに一部の手数料(base fee)が焼却(バーン)される仕組みがあります。直近90日間のデータでは、新規発行量に対してバーン量が一部を相殺し、純供給量の増加率は年率換算で1%を下回る水準に収まっています(ネットワークの利用状況によって変動します)

Solanaの現状(2026年8月時点の実測値)

  • ステーキングAPYはおおむね6〜8%程度で推移しています
  • インフレ率(新規発行率)は現在年率3.7%程度です。Solanaは当初年率8%のインフレ率から毎年15%ずつ逓減し、長期的には1.5%に収束する設計になっており、現在はその途中の水準にあります

「実質利回り」という考え方

実質利回りは、おおまかに「表面利回り − インフレ率(新規発行率)」で捉えることができます。この考え方に当てはめると、ETHは表面利回りは低いものの新規発行が極めて少なく実質的な希薄化が小さい一方、Solanaは表面利回りが高い分、その多くがインフレによる希薄化を相殺するための報酬だという整理になります。

比較・選び方

項目ETHSolana
ステーキング表面利回り(2026年8月時点)約2.8%(MEV込みで3.3〜3.8%)約6〜8%
インフレ率(新規発行率)純供給増加率は年率1%未満(バーンにより変動)約3.7%(当初8%から毎年15%逓減、長期1.5%収束の途上)
供給量を減らす仕組みEIP-1559によるbase feeバーン(需要次第で発行量を上回ることもある)手数料の一部バーンはあるが、発行量を相殺しきる規模ではない
実質利回りの目安表面利回りとほぼ近い(希薄化が小さいため)表面利回りよりかなり圧縮される(インフレ分が大きいため)

表面利回りの数字だけを比較すると「Solanaの方がお得」に見えますが、インフレという原資まで分解すると、両者の差はかなり縮まります。

米国債利回りという「リスクフリーレート」の物差し

米国債利回りとステーキング利回りの比較

ここまではETHとSolanaという暗号資産同士の比較でしたが、証券会社時代の感覚で言うと、利回りを評価する際にはもう一つ欠かせない比較対象があります。それが「リスクフリーレート」の代表格である米国債利回りです。

2026年8月時点で、10年米国債利回りはおおむね4.7%前後で推移しています。これはプロトコルのリスクを取って得るステーキング利回りとは異なり、米国という国家の信用力を背景にした利回りです。興味深いのは、米国債にも「実質利回り」という同じ発想が当てはまることです。名目利回り(表面利率)からCPI(消費者物価上昇率)を差し引いたものが実質金利であり、これはトークンの「表面利回り−発行率(インフレ率)」と、構造としては同じ「名目値から目減り分を引く」という計算です。

直近の動き:米国債利回りの低下観測とトークン価格の上昇

2026年8月中旬、米国債利回りは一時30年債で5.337%(2007年以来の高水準)、10年債で4.75%(20カ月ぶりの高水準)まで上昇していました。ここで米財務省(ベッセント長官)が長期国債の買い戻し(バイバック)規模を1回あたり40億ドル以上に倍増すると発表したことをきっかけに、10年債利回りは4.64〜4.65%まで低下しました。

このタイミングでビットコインが約5.8%上昇(一時69,500ドル超、ショートポジションの強制決済が約12億ドル発生)、イーサリアムが9%上昇(2,088ドル)、Solanaも6.5%上昇するという急騰が起きています。

ただし検証してみると、これは「FRBの利下げ期待の高まり」というよりも「財務省による国債の需給調整(バイバック)という技術的な措置」が直接のきっかけでした。実際、2026年内のFRBの利下げは市場予想でも1回程度しか織り込まれておらず、金融緩和サイクルへの期待というよりは、国債の需給という一時的な要因が引き起こした値動きだったと見る方が正確です。その後、10年債利回りはAI関連企業の債務発行増加や財政赤字拡大、原油高(イラン制裁観測)によるインフレ懸念を背景に4.71%まで戻しており、バイバックによる利回り低下効果は一時的なものにとどまった可能性があります。

なぜ米国債利回りの低下がトークン価格に影響するのか

米国債利回りは「リスクフリーレート」として、あらゆる資産の相対的な魅力度を測る基準点の役割を果たします。リスクフリーレートが下がると、相対的にリスクを取ってでも高いリターンを狙う資産(ビットコインやステーキング資産を含む暗号資産)の魅力が相対的に高まり、資金がそちらに向かいやすくなります。「利回りが下がれば債券のリターンは下がり、資金はより高いリターンを求めて他に向かう。ビットコインはその列の先頭近くにいる」という指摘は、この資金シフトの構図を的確に表しています。

証券会社時代の感覚で言うと、無リスク資産の利回りが下がる局面で、相対的に高いリターンを狙う商品に資金が向かいやすくなるというのは、伝統的金融でも見慣れた構図です。ただし今回の値動きが示すように、この資金シフトは「金融緩和サイクルの始まり」を意味するとは限らず、一時的な需給要因による利回り低下でも同様の資金シフトが起こり得る点には注意が必要です。

リスク・注意点

  • 講座やAIの回答であっても、具体的な数値は鵜呑みにせず検証する習慣が重要だと実感しました。 今回、大学の講座で聞いた「Solanaのインフレ率5〜6%」という数字を一次情報で確認したところ、実際には約3.7%(当初8%から逓減する設計の途中)でした。方向性(高利回りチェーンほど希薄化が大きいという構造)自体は正しかったものの、具体的な数値は変化するため、記事や講座の内容をそのまま引用せず、自分でも数字を確認することをおすすめします
  • Solanaのインフレ率は年々逓減していく設計のため、今後さらにETHとの実質利回りの差は縮まっていく可能性があります
  • 「実質利回り=表面利回り−インフレ率」という計算はあくまで概算です。厳密には、ステーキングしている人としていない人の間での価値移転(ステーキング参加率がどの程度かによって、非参加者の希薄化の度合いが変わる)まで踏み込むと、より精緻な議論になります
  • ETHのバーン量は取引需要に応じて変動するため、ネットワークの利用が少ない時期は純発行量が増える(インフレ圧力が強まる)可能性があります
  • 米国債利回りとトークン価格の関係は「相関」であって「因果」を断定できるものではありません。今回の値動きも財務省のバイバック・ETF資金・規制動向・ショートスクイーズなど複数の要因が重なっており、単純に「利回り低下=トークン価格上昇」という一対一の関係で捉えるのは危険です
  • 米国債利回りは日々変動するため、本記事に記載の水準(4.7%前後)は2026年8月時点のスナップショットにすぎません
  • 本記事の数値は2026年8月時点の情報に基づく概算であり、将来の利回りやインフレ率を保証するものではありません
  • 暗号資産は価格の変動が大きく、購入時の価格を下回って損失が生じる可能性があります。本記事は特定の銘柄やサービスへの投資を推奨するものではありません。余裕資金の範囲で、リスクを理解したうえでご判断ください

まとめ

ステーキング利回りは、表面上のパーセンテージだけを見て「高い方が得」と判断するのは早計です。その利回りが「新規発行によるインフレの相殺」なのか、「実質的な価値の積み増し」なのかを分解して見る視点が重要です。これはDeFiのAPY表示を分解して考える視点(取引手数料由来なのか、トークンインセンティブ由来なのか)と本質的に同じ発想です。

さらに、この「実質利回り」という物差しは米国債利回り(リスクフリーレート)にもそのまま当てはまります。2026年8月に見られた「米国債利回りの低下→暗号資産価格の上昇」という値動きも、突き詰めれば「無リスク資産の利回りが下がると、より高いリターンを狙う資産に資金が向かいやすくなる」という、伝統的金融でも見慣れた資金シフトの構図で説明できます。ただし今回のきっかけは利下げ期待そのものではなく財務省の国債買い戻しという技術的な要因であり、しかもその効果はすでに一部巻き戻っています。値動きの背景を「なんとなくの物語」で済ませず、一段階分解して確認する視点は、ステーキング利回りの分解と同様にここでも欠かせません。

DeFiの利回り表示の分解については「元証券マンが見るDeFiのAPY|高利回り表示に潜むカラクリと注意点」を、リステーキングの基本については「イーサリアムのステーキングとリステーキングの違いを解説」(/eth-staking-restaking-difference/)もあわせてご覧ください。

実際にSOLをウォレットに移してステーキングした記録は「Solanaをステーキングしてみた|Phantomで分かった手数料の仕組みと落とし穴」にまとめています。そのときの送金元の一つが、板取引のMaker手数料が安いbitbankでした → 【PR】bitbank(ビットバンク)

参考情報

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